高齢化が進む現代社会において、QOLを高く保ち高齢者が健康な生活を送るためには、口腔機能が損なわれることなく正常に保たれ、口腔から栄養を摂取することが非常に重要な要因の一つであると考えられる。しかし実際には、年齢と共に、異常疼痛や味覚障害,摂食・嚥下障害に代表される多様な神経疾患が顎顔面口腔領域に発症し、口腔からの食物摂取が困難な高齢者が増加している。身体の栄養を維持するという点では口腔以外の経路で栄養を摂取することは可能であるが、過去における様々なデータから、胃ろうや経管栄養など、口腔以外からの栄養摂取に切り替えると、著しく寿命が短縮されると報告されており、口腔からの栄養摂取が身体の栄養の維持だけでなく、全身の健康維持にとって栄養維持以外の重要な要素であることは間違いのない事実である。口腔からの食物摂取を維持するためには、口腔機能を正常に保ち、口腔内環境を健康に維持する必要がある。
 また、様々な疾患によって口腔内環境が悪化すると、口腔の異常疼痛、味覚障害、咀嚼機能障害あるいは発話障害など、様々な障害が引き起こされる。特に、口腔内に引き起こされた神経因性の難治性疾患に対しては、口腔以外の部位の治療法が適用され、口腔の特殊性を考慮した治療法がほとんどなく,姑息的な治療法に終始している。このような顎顔面口腔における難治性神経疾患に対して科学的根拠に基づく根治的治療法を開発するには,病態に関する豊富な基礎データと,その知見に基づく臨床研究の推進,そして神経内科や脳外科を含む隣接医科との密接な連携医療体制の構築が重要であると考える。
 本事業は,顎顔面口腔に発症する難治性神経疾患克服に向け,基礎研究で得られた科学的根拠を臨床につなげる研究プロジェクトを推進し,関連する医療分野を横断する研究体制と治療拠点を構築することを目的として進められた。


研究の計画および統括
 大塚吉兵衛、岩田幸一、小林真之
 (本研究プロジェクトの予算編成、各研究の進行に関する定期的な評価と連携、人員の確保、共同研究機関の選定と成果公表に関わる業務、国際シンポジウムの開催、ホームページの更新)


運動機能障害に関する基礎・臨床研究プロジェクト
 グループ責任者:越川憲明
 ○基礎研究構成員(日本大学歯学部):
  三枝 禎、藤田智史、池田弘子、鴻海俊太郎(PD)、宋莉秋(PD)、青野悠里(PD)、溝口尚子(PD)
 ○臨床研究構成員(日本大学歯学部):
  植田耕一郎、阿部(齋藤)仁子
 ○共同研究機関
  ・日本大学大学院総合科学研究科(トランスじぇニックマウスを用いた顎運動の網羅的解析)
    富山勝則
  ・新潟大学大学院歯学研究科(嚥下に関する研究)
    山村健介、山田好秋、井上 誠、辻村恭憲
  ・理化学研究所分子イメージング科学研究センター(パーキンソンモデルサルの機能イメージングと解析)
    尾上浩隆、横山ちひろ
  ・アイルランド王立大学医学部(トランスジェニックマウスを用いた顎運動の網羅的解析)
    John Waddington
  ・ナイメーヘン大学(顎運動に関連する行動薬理学的解析)
    Alexander Coos
  ・大阪大学大学院歯学研究科(運動障害モデル動物の作製および解剖学的解析)
    吉田 篤、加藤隆史
  ・大阪市立大学大学院医学研究科(脳磁図を用いた運動機能障害に関する臨床研究)
    渡辺恭良


感覚機能障害に関する基礎・臨床研究プロジェクト
 グループ責任者:岩田幸一
 ○基礎研究構成員(日本大学歯学部):
  小林真之、白川哲夫、坪井美行、近藤真啓、篠田雅路、小川(岡田)明子、鈴木郁子、宮本真記子(PD)、本田訓也(PD)、海野俊平(PD)
 ○臨床研究構成員(日本大学歯学部):
  今村佳樹、本田和也、大井良之、野間 昇
 ○共同研究機関
  ・日本大学医学部医学研究科(fMRIを用いた感覚異常患者の脳機能解析)
   片山容一、山本隆充
  ・日本大学医学部医学研究科(臨床における神経因性疼痛の評価法に関する研究)
   小川節郎、鈴木 裕
  ・自然科学研究機構生理学研究所(神経因性疼痛のヒトにおける発症メカニズムに関する基礎研究)
   柿木隆介
  ・宮崎大学医学部医学研究科(神経因性疼痛の分子メカニズムに関する基礎研究)
   高宮考悟
  ・トロント大学歯学部(神経因性疼痛の神経生理機構に関する基礎研究)
   Barry Sessle、 James Hu
  ・兵庫医科大学医学部(神経因性疼痛の神経メカニズムに関する基礎研究)
   野口光一、
  ・兵庫医療大学薬学部(痛覚異常に関する神経機構の解明)
   戴  毅
  ・明海大学歯学部(味覚に関する基礎研究)
   安達一典
  ・大阪大学大学院歯学研究科(味覚障害モデル動物の作製および解剖学的解析)
   脇坂 聡、吉田 篤
  ・九州歯科大学大学院歯学研究科(疼痛異常の神経機構に関する行動学的、免疫学的解析)
   人見涼露
  ・新潟大学大学院歯学研究科(顔面領域における神経因性疼痛発症機構に関する基礎研究)
   北川純一
  ・東京医科歯科大学大学院歯学研究科(fMRIを用いた感覚異常患者の脳機能解析)
   泰羅雅登、勝山成美