第19回講演2抄録



なかなか治らない痛みとその治療

 顔面頭痛の中にはしばしば診断,治療に苦慮するものがあります。頭部には,味や音,光を認識する特殊な感覚器,内分泌臓器,あるいは運動器として機能するものが多く,それぞれが異なった脳神経によって支配を受けており,それにかかわる障害は異なった専門診療科によって管理されています。このことは,患者さんがどの専門科を受診してよいのかを複雑にしているばかりか,医療を提供する側においても専門領域を作り上げ,問題を複雑にしています。しかし,実は,顔や頭の痛みを複雑にしているのは,これらの臓器の特殊性によるというよりも,顔面頭部が「関連痛」とよばれる特殊な痛みが生じやすい領域であることに起因しているということはあまり知られていません。
 痛みを大別すると,炎症などの際に身体の障害から起こる痛みと神経自体の障害による痛み,心因性の痛みに分けることができます。身体の障害に伴う痛みでは,深部組織から生じる痛みは,部位の特定が難しく,うずくような重い痛みであることが特徴であり,しばしばこの痛みは「関連痛」を伴い,本来の痛みの原因部位とは離れた部位に疼痛を引き起こします。 歯科を受診する患者さんの訴えの多くは痛みです。歯科においては,以前は治らない歯は抜歯するのが当然でした。しかし,予防医学の概念の普及とともに最近ではなるべく歯を残す方針が主流となっており,説明のつかない歯の痛みに対して系統的に考える動きがようやく出てきました。今回の講演では, なかなか治らない歯の痛みに苦しむ患者さんを診る場合のポイントについて,特に「関連痛」を中心に実際の事例を挙げてお話させていただこうと思います。