歯周病でエイズ発症の恐れ



細菌学教室 落合邦康

 歯周病原菌により口腔内に産生される酪酸が、潜伏しているエイズウイルス(HIV)を活性化させ、エイズ発症につながる可能性があることを、本学部細菌学教室の落合邦康教授が明らかにした。  従来の研究により、歯周病は糖尿病や循環器疾患などに関わることは知られていたが、HIVを活性化することを世界で初めて報告した。また、研究内容は、世界4大通信社の一つAFPにより世界中に配信され、国際的に大きな反響を呼んでいる。
 HIVは、感染後自らの遺伝子を、免疫細胞の染色体内に組み込み、宿主細胞内でウイルス粒子を複製する。しかし、様々な転写因子に結合する酵素「ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)」によりその複製は抑制され、長期間潜伏感染する。ウイルスの複製が開始されるとヒトを死に至らしめるため、どのような状況で潜伏感染が破綻するか、世界中の研究者の注目を集めていたが、よく解っていなかった。
 落合教授は、名古屋市立大学の岡本尚教授らと共同で、歯周病原菌が産生する酪酸により、このHDACの働きが阻害されることに着目した。そこで、HIVが潜伏感染している免疫細胞に、酪酸を含む歯周病菌の培養液を与えたところ、ウイルスが急速に増殖することを実験で確認し、その機序を解明した。
 HIVの発見から25年経過した今日でも有効なワクチンは開発されていない。その結果、今なお感染者数は増加し続け、全世界で3,300万人の感染者がおり、年間約210万人が死亡している。エイズの化学療法は飛躍的に進歩したが、薬剤耐性ウイルスの出現や重篤な副作用のため、近年その限界が明確となってきた。落合教授は、エイズの発症は、個人の体力差によるところが大きいが、HIV感染者は、重症の歯周病をきっかけにエイズを発症する可能性があると指摘し、口腔内ケアの重要性を強調した。
 この研究は、国際的免疫学専門誌「Journal of Immunology3月号」に掲載された。



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