第13回講演1抄録



高齢者介護と口腔ケア
 〜口から食べたい・生きることの意義(QOL)を求めて〜

 わが国においても高齢化社会が確実にすすんでいます。それにつれて,歯科においても訪問診療(往診)の需要が増加しています。高齢者を抱えるご家庭の介護は大変なことだと思います。特に,排泄の処置と食事は毎日のことであり,そのご苦労は介護に当たられる当人しかわからない想像を絶する戦いでもあります。
 歯科の訪問診療を続けていると,それぞれの家庭の老人に対する基本的な姿勢をかいま見ることができ,診療室では体験できないような複雑な気持ちになります。
 現代医学では口から栄養をとらなくても,十分に長く生命を維持できます。しかし,人間は食べ物を目で見て,鼻で香りを楽しんで,お箸で触感を確かめて,口に入れて,歯で噛んで,舌で味わい,飲み込むときののど越し等,一連の過程を経て食事という動作を行っているのです。もちろん一番大切なことは,噛んで味わって飲み込むという動作です。
 それがQOL(生命の意義,生きることの意義)です。実際に,入れ歯が入ってものが噛めるようになると,寝た切りだった老人がベットに立ち上がって食事をするようになる場合が多くあります。そうすると自然と介護者との会話も増加し,お孫さんがベットの周りに集まってきておしゃべりをするようになって,QOLはますます増大するのです。口から食べ,口でおしゃべりすることは動物の基本動作です。私は歯科医師として,これら人間のQOLに関するもっとも大切な口腔という組織の専門医であることに誇りを持っています。
 今回は,私が日頃行っている歯科訪問診療を通して感じたこと,特に高齢者の介護と口腔ケアについてQOLの観点からお話ししたいと思っています。


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