第16回講演2抄録



歯みがきで全身の健康を守る
 〜口の中の細菌が健康を脅かす〜

 歯周病は歯周病原菌と呼ばれる細菌によって引き起こされる感染症です。歯周病が進行すると,歯を支えている骨や歯肉が溶けていき,歯がぐらぐらしてきます。中高年者の歯を失う主な原因はこの歯周病で,日本人の約8割が罹っている国民病です。
 最近の研究では,歯周病は歯を失う原因となるばかりでなく,全身の健康を脅かす一因となっていることが分かってきました。歯周病を引き起こす歯周病原菌は,心筋梗塞を引き起こす原因の一つであったり,歯周病による口の中の炎症によって作られた起炎物質が全身をめぐって糖尿病の症状を悪化させたり,妊婦の場合では早産や流産を引き起こすことも分かってきました。また,口の中の細菌が知らず知らずのうちに肺に入り込んで肺炎を引き起こすことも知られています。
 このように,口の中だけでなく,全身の健康に影響を与える歯周病ですが,歯周病には,罹りやすい人と罹りにくい人がいます。このような個人差は,昔では「体質」とも呼ばれていましたが,詳しいことは何も分かっていませんでした。しかし,最近の技術の進歩により,この「体質」に遺伝子が関係していることが明らかになってきました。
 歯周病は前にも述べたように歯周病原菌と呼ばれる細菌によって引き起こされます。細菌に対する抵抗力は個人の遺伝子の差によって大きく左右されます。いくつかの遺伝子が歯周病の罹りやすさに関係しているとの報告がありますが,まだ氷山の一角が分かっただけです。この歯周病に罹りやすい遺伝子を明らかにすれば,早期発見,早期治療により歯周病に罹りやすい人も歯を失わなくてすむかもしれません。このような個人の「体質」に合わせたオーダーメイド医療を近い将来に実現するためのプロジェクトもこの歯科病院で行われています。

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