随想 医は仁術

米原 啓之



口腔外科2 米原 啓之

 アメリカの金融危機を発端として世界中で経済が混乱しています。一方で、アメリカには黒人初の大統領が就任することとなり、歴史的な転換点なのかもしれません。  われわれの医療も大きな変革が必要ではないでしょうか。医療の問題はここ数年様々に報道されてきましたが、医療訴訟の増加、産科、小児科、麻酔科などの医師不足、慢性的な看護師不足、医師の過重労働、地域による医師の偏在さらには地域基幹病院の閉鎖、歯科医師の過剰、保険制度の混乱、医療費の増大など数多くの問題が複合的に絡み合っています。現在の状態は、医学部定員増加や一時的な補助金の増額などで対処できる問題ではないと思います。保険制度の見直し、医療施設の財政基盤確立、質の高い医療従事者の確保など医療制度の根本から再構築が必要です。  歯科医師や医師などの医療従事者は、人の命に携わる仕事をしています。また、全ての国民が自分自身あるいは自分の親兄弟子供が最善の医療を受けられる状態を望んでいます。現在進められている医療政策は根本的に増大する医療費を抑制する政策であり、われわれが望む最善の医療を施すあるいは受ける希望とは相容れないものです。今は、医療問題の目先の対応に囚われているのではなく、われわれ自身が生活する社会の、医療に対するあり方を考えなければいけないのではないでしょうか。  振り返ってわが身を見てみると、学生教育や医局員の教育にそのような視点が足りなかったように思います。医療が数多くの問題を抱えている今こそ、「医は仁術」の原点に戻り、患者様や社会に責任を持って医療を行える技術、知識を教育するだけでなく、医療人として社会に果たさなければならない義務と、それを果たすことによる誇りを、若い世代の人たちに伝える責任が、われわれにはあると思っています。(教授 口腔外科学2)



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