研究テーマ/実績

HOME > 研究テーマ/実績 > 落合邦康:口腔感染症研究の意味論

口腔感染症研究の意味論-落合邦康

口腔感染症と全身疾患 (No.1 寿命とは) 

口腔は体の一部でしょうか?体は口腔の一部でしょうか?答えは、明確です。
では、口腔感染症は口腔だけの問題でしょうか?それとも、全身に影響する感染症でしょうか?
この答えはやや難しい。理解して頂きたいのは、口腔感染症は、全身の免疫力 (防御能力、抵抗力) の変化を考える上でとても良いインジケーター (指標) になります。宿主の健康状態により、口腔感染症は口腔だけの問題ではなく、全身にも影響するということです。口腔感染症と口腔ケアの重要性を理解いただくため、ここではシリーズで「口腔感染症と全身疾患」をお話しいたします。

口腔感染症を理解するには、全身の免疫力と併せて考える必要があります。口腔の感染症を、免疫力の低下を示す重要なサインとしてとらえる研究者や臨床医は、まだ少ないようです。主な理由は、口腔疾患が、直接の死亡原因にはならないと考えられてきたからでしょう。なぜでしょう?口腔には強い病原性細菌はいません。
更に、口腔粘膜や組織は、他の粘膜組織に比べて、とても強い組織でそう簡単には壊れないのです。また、口腔内の細菌は,絶えず粘膜から組織内に侵入していますが、健康であれば、粘膜下の免疫担当細胞が侵入した細菌を速やかに排除します。

口腔は、外界に直接接触しているため「不潔な場所」という前提で、われわれは進化してきたと考えられます。従って、口腔にはさまざまな防御手段が備わっていますし、粘膜下には細菌を排除するための食細胞や免疫担当細胞がたくさんいます。大量の菌が生息する糞便と接する消化管でも同じことがいえます。

感染症を細菌の病原性だけで考えることは片手落ちです。感染症は、宿主の免疫力と原因菌の力関係で成立します。従って、宿主の免疫力が低下すれば、何でもないと思われる菌によっても重篤な感染症が起こり,しばしば、死に至ります。私の学生時代、微生物の講義では、「これは病原菌。これは非病原菌」と区別して教えられました。しかし、高齢者の増加などにより病原菌に対する考え方が大きく変わりました。つまり、どの菌が病原菌で、どの菌が非病原菌か断定することは出来ないのです。

現在、肺炎は第4番目の死亡原因です。第1位はガンですが、ガンは死因となりません。死因には、直接的死因と間接的死因があります。ガン細胞は、元々われわれの体の細胞が変化してできたものですので毒素を出したりすることはありません。ガン細胞が増えて、生命維持に必須な臓器の機能を完全に消失させる前に、宿主に死をもたらす原因があります。それは、細菌です。ガンの患者さんの直接の死亡原因は、多くの場合、肺炎や敗血症です。つまり、細菌感染です。その中で一番多い原因菌は、他でもない、口腔やのど、そして、皮膚に住み着いている常在菌です。ずっとあなたと共存してきた常在菌が,将来あなたの命を脅かす可能性は極めて高いのです。つまり、「寿命とは、常在菌と共存できる期間」と言い換えることができるかもしれませんね。

ページトップへ